ミステリー
第12回本格ミステリ大賞を受賞した『開かせていただき光栄です』は、総毛立つほど面白い、まさに崇拝すべき一冊である。 さりげない伏線に何度でも騙されたい、あの時の、魂が震えるような昂ぶりをもう一度味わいたい、そんなマンネリ気味のミステリ好きに…
椿は普通、首が落ちる様を思わせるとして武家に嫌われる花である。 散り椿は、花ごとぽとりと落ちるのではなく、花弁が一片(ひとひら)ずつ散っていく。 秀吉が寄進した五色八重散椿(ごしきやえつばき)の植えられた地蔵院の境内を舞台に、男と女の想いが…
『ぼんくら』とは、頭のぼんやりした怠け者のことである。 四十なかば、ぼんくらだけれど心根の優しい親父、井筒平四郎(いづつ へいしろう)は、続けざまに人が立ち退いていく町の様子に違和感を覚えていた。 事情があって新しく配属された佐吉という名の若…
成らず者には二種類の人間がいる。 苦境を逃れようと、生きるために足掻いた結末として犯罪者となった者と、 金や権力、人望の全てをもっているにも関わらず、強欲のために自ら悪に染まる者だ。 どちらがより悪党かなんて、考えたことがあるだろうか? 下山…
直木賞受賞後、映画化もされた名作『蜩ノ記(ひぐらしのき)』は、私が時代小説に初めて恋をした、思い入れの深い一冊である。 蜩ノ記 (祥伝社文庫) 作者:葉室 麟 出版社/メーカー: 祥伝社 発売日: 2013/11/08 メディア: 文庫 罪を犯し、命の期限を定められ…
深さ7メートル、 すり鉢を逆さにしたような形の穴がある。 ある日兄弟は、到底出られそうもないその穴の底に落ちてしまう。 深い穴に落ちてしまった 作者:イバン・レピラ 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2017/01/21 メディア: 単行本 不思議な本と出…
いつも小説の紹介ばかりしていますが、実は私、漫画も大好きなんです。 1月17日、長い休載から2年半ぶりに発売された『ボールルームにようこそ』の最新刊、もう最っっ高でした!!! ボールルームへようこそ(10) (月刊少年マガジンコミックス) 作者:…
お久しぶりです、ながれです。 「このミステリーがすごい!」2020年版国内篇 第一位、 「本格ミステリ・ベスト10」2020年版国内ランキング 第一位、 「2019年ベストブック」(Apple Books)2019ベストミステリーの 三冠を見事獲得し、各メディアで今大注目さ…
皆川博子の物語に出てくる台詞は、いつも耳に心地よく、見ていて美しい。 活字が水面に浮かぶ落ち葉のように鉤括弧の外に揺れ動き、耳元でたしかに今、女の秘めやかな声が聞こえたような気がしてしまう。 ゆめこ縮緬 (角川文庫) 作者: 皆川博子 出版社/メー…
本を開けばいつも主人公がいて、その主人公の行動や決断によって読者にカタルシスが生まれる。ところがこの一冊の本の内容を説明するには、主人公であるべき男の行動や決断が、あまりにも欠乏しすぎていた。にも関わらず、これまでにないほど印象的だと感じ…
「死にたい」と、たしかにそう聞こえた。帰宅途中のホームのベンチで、私は携帯のLINE画面から視線をあげる。それがすぐ隣でもたれるように座っていた女性の声だと気付くと、私はそのぽっかりと開いた空洞のような瞳に釘付けになった。地下鉄の蛍光灯の…
はじめまして、ながれです。 お目通しいただきありがとうございます。 『地底人とりゅう』では私の読書本紹介をメインに投稿していきます。 本日は私が夏の冷房よりも渇望してやまない皆川博子先生の、『クロコダイル路地』をご紹介します。 クロコダイル路…