地底人とりゅう

「地底人とりゅう」は、日々の読書本を記録していくために開設した個人ブログです。書店では入手困難な古書の紹介もぽつぽつと投稿しております。

幻想

『白い果実』(国書刊行会):ジェフリー・フォード

ジェフリー・フォードの『白い果実』は、悪に満ちた独裁者の世界から始まる。 世界幻想文学大賞にふさわしいこの驚異的な小説を、日本幻想文学の巨匠である山尾悠子が訳しているのだから、読まないという選択肢はなかった。 原作の世界観を崩すことなく訳す…

『寝台鳩舎』(太田出版):鳩山郁子

煤けた青空を飾るように舞う、この美しい少年たちは軍鳩である。 一斉に飛び立ち、どこにも帰り着くことのできないまま、彼らは戦時下の空の虚空に無数に散っていく。 寝台鳩舎 作者:鳩山郁子 出版社/メーカー: 太田出版 発売日: 2016/11/17 メディア: 単行…

『わたしは灯台守』(水声社):エリック・ファーユ

カミュの『異邦人』の言葉を借りるならば、人間の生にはなんらの確たる意味も根拠も目的もない。 『わたしは灯台守』はそんな、人間世界の無意味性を訴えかけてくるような本である。 灯台守のわたしと陸地に住む人間たちの関係は、根源的な人間と世界の関係…

『辺境図書館』『彗星図書館』(講談社):皆川博子

「本が好き。だけど、自分がどんな物語を、取りわけ愛おしく思えるのか分からない」 そんな人は案外多いのではないでしょうか。 私自身、2年前まで自分は特にミステリーが好きなのだと思い込んでいました。 名の知れたミステリー小説ばかりを読み漁り、好き…

『ゆめこ縮緬(角川文庫)』:皆川博子

皆川博子の物語に出てくる台詞は、いつも耳に心地よく、見ていて美しい。 活字が水面に浮かぶ落ち葉のように鉤括弧の外に揺れ動き、耳元でたしかに今、女の秘めやかな声が聞こえたような気がしてしまう。 ゆめこ縮緬 (角川文庫) 作者: 皆川博子 出版社/メー…

『黄色い雨(河出書房新社)』:フリオリャマサーレス

本を開けばいつも主人公がいて、その主人公の行動や決断によって読者にカタルシスが生まれる。ところがこの一冊の本の内容を説明するには、主人公であるべき男の行動や決断が、あまりにも欠乏しすぎていた。にも関わらず、これまでにないほど印象的だと感じ…