『黄色い雨(河出書房新社)』:フリオリャマサーレス
本を開けばいつも主人公がいて、その主人公の行動や決断によって読者にカタルシスが生まれる。
ところがこの一冊の本の内容を説明するには、主人公であるべき男の行動や決断が、あまりにも欠乏しすぎていた。
にも関わらず、これまでにないほど印象的だと感じたのは、本を開けばその男の、静かな心臓の鼓動が聞こえてくるからだろう。
あるいは降りしきるポプラの枯れ葉が、決してこの男のためだけのものではないことを知っているからかもしれない。
のっぺりとした黄色い表紙から、じっと眼を離せなくさせるような引力が、この本の中には潜んでいた。
ところがこの一冊の本の内容を説明するには、主人公であるべき男の行動や決断が、あまりにも欠乏しすぎていた。
にも関わらず、これまでにないほど印象的だと感じたのは、本を開けばその男の、静かな心臓の鼓動が聞こえてくるからだろう。
あるいは降りしきるポプラの枯れ葉が、決してこの男のためだけのものではないことを知っているからかもしれない。
のっぺりとした黄色い表紙から、じっと眼を離せなくさせるような引力が、この本の中には潜んでいた。
「黄色い雨」は、スペインに実在するアイニェーリェ村という廃村で、最後の一人として生きた男の走馬灯劇である。
第一章の最後に、主人公の「わたし」が置かれている状況を理解した私は、この後もきっとこの淋しい村と男に希望は訪れないのだろうと悟った。
それでも一度も退屈することなくページをめくり続けられたのは、あまりにも透明な、美しい情景描写のおかげだ。
著者、フリオ・リャマサーレスは詩人である。
第一章の最後に、主人公の「わたし」が置かれている状況を理解した私は、この後もきっとこの淋しい村と男に希望は訪れないのだろうと悟った。
それでも一度も退屈することなくページをめくり続けられたのは、あまりにも透明な、美しい情景描写のおかげだ。
著者、フリオ・リャマサーレスは詩人である。
何ひとつ動きのない死んだ村。
そこでたった一人残された男にとって、唯一風景と呼べるものは、自分の記憶だけだった。
孤独を認めたその瞬間、時間は砂時計を逆さにしたように、それまでとは逆方向に流れ始める。
時に、「静」は「動」よりも有言であることを、私はこの本で思い知った。
そこでたった一人残された男にとって、唯一風景と呼べるものは、自分の記憶だけだった。
孤独を認めたその瞬間、時間は砂時計を逆さにしたように、それまでとは逆方向に流れ始める。
時に、「静」は「動」よりも有言であることを、私はこの本で思い知った。
物語の端々に、「黄色い雨のように」や「間もなく彼らがやってくるだろう」という言葉が何度も出てくる。
彼を怖いと思ったことはなかった。子供の頃も。
黄色い雨がその秘密を明かしてくれた夜も、怖いとは思わなかった。
彼を怖いと思ったことはなかった。
というのも、
彼もやはり老犬を追う貧しく孤独な犬獲りだとわかっていたからだ。
彼がやってこないと、
あの男もやはり、
私が生きていることを忘れたのではないのだろうかと考えて、
昔サビーナと彼がしたはずのことをしてみようと思ったりした。
「黄色い雨」とはなんなのか。「彼」とは誰のことなのか。
読み進めるにつれ、その正体は徐々に明らかになっていく。
読み進めるにつれ、その正体は徐々に明らかになっていく。
さらにフリオ・リャマサーレスはまるでこの村の家々が倒壊していく様子を、何年も見てきたかのように、迫りくる死を美しく鮮明に映しだしている。
以下、少し長めに引用しよう。
以下、少し長めに引用しよう。
最初、黴と湿気が音もなく壁を食い荒らし、ついでに屋根を食らい尽くす。
やがて、屋根を支えている梁だけが、進行の遅いレプラにおかされたようのあとに残される。
その後、野生の地衣類が姿を現し、苔と白蟻が黒い死の鉤爪を立てる。そして最後に、家全体が残らず腐敗し、風、あるいは雪が最後の止めを刺す。
中略
以来今日まで、死はゆっくりと執拗に家の基礎や梁を侵してきた。
わずか四年のあいだに、ヘデラと白蟻は一家族が百年かけて作り上げてきたものを破壊した。
今、両者は手に手をとってこの家の重みと記憶を支えている最後の物体を捜し求めて、古い廊下と屋根の腐った木材の中を這い進んでいる。
黄色い色をした、古びくたびれたそれらの物体は間もなく完全に腐り、ついには雪の降りしきる中、まだ家の中にいる私とともに崩れ落ちるだろう。
男は「彼」の訪れを待っている。
この本の中でずっと。
この本の中でずっと。
@ながれ