『アースダイバー(講談社)』:中沢新一
中沢新一の新刊である「レンマ学」を読むことを潔く諦めた私に、親切で聡明な知人が中沢新一の著作物の中でも一番易しいと思われる哲学書として、「アースダイバー」という本を教えてくれた。
読んだからには感想を伝えなくてはいけない。
ところがいざどんな本だったか聞かれて私は、これほど質素な感情が他にあるだろうかと思うような、たった一言に凝縮された稚拙な感想を口にしていた。
「中沢新一は、変態だ……」
- 価格: 2530 円
- 楽天で詳細を見る
はじめ世界には陸地がなく、一面の水に覆われていた時代、勇敢な動物たちが次々に水中に潜って陸地をつくる材料を探し、挑戦しては失敗していた。
最後に潜ったカイツブリがとうとう海底にたどり着き、そこでひと握りの泥をつかんで浮上することに成功する。
その一握りの泥を材料にして陸地は作られたというのが「アースダイバー神話」で、これを元に、自身の東京散歩を「アースダイバー式」と名付け、心躍る大人の散歩をしようというのがこの本の趣旨である。
大昔に水中から引き上げられた泥の堆積が東京のそこここに散らばっているのに気付き、興奮した中沢新一は、自分もカイツブリにならなければならないと思い立ったのだった。
たびたび急上昇する中沢新一の妄想と興奮には置いてけぼりをくらったが、それが単なる妄想ではないのだからおもしろい。
たしかにそこには縄文的なものが潜んでいて、その神秘性に辻褄が合ってしまうことに何度驚嘆したことだろう。
例えば東京タワーの展望階からエレベーターに乗って地上に降りる時、中沢新一はその状況をギロチンに似ていると感じたそうだ。
常人では到底行き着かないような思考回路を辿ってくるから、根拠のない言いがかりのようでもあるが、そうだ、言われてみれば、東京タワーの3階には、それを裏付けるように43年間もの間変わらず、マダム・タッソーにそっくりの蝋人形館があった。
そういう具合に、アースダイバーは意味が分かるとぞっとするような本なのである。
新宿の起源を語る伝説にもある「水」と「大蛇」と「黄金」が、同じく中沢新一の著書、「世界のはじまり」という絵本に出てくる湖の底で世界の色彩という黄金を独りじめにする大蛇のはなしと重なった。
そして私もよく知るあの新宿は、弥生的な乾燥性の商品文化と、縄文的な湿地性の商品文化が一体となった、日本列島に生きてきた人間の歴史が凝縮された街だったことを知る。
というセンテンスに、鳥肌が立ったのを覚えている。
坂は二つの性質の違う土地をつなぐ、移行の空間であり、東京の重要なスポットのほとんどすべてが、死のテーマに関係をもっていたのだ。
「アースダイバー式」東京散歩は、思いもよらなかった角度から東京を知ることができる、心がざわつく読書体験となった。
@ながれ