『熱源(文藝春秋)』:川越宗一
本にもミステリ、ホラー、SF、ファンタジーと色々な類型がある中で、私が最も好きなのが、「熱」を持つ小説である。
その熱を必ずといって良いほど感じられるのが、歴史小説だ。
昨年、「天地に燦たり」で松本清張賞を受賞した川越宗一が、2作目に刊行した長編小説『熱源』は、文明開化という大義名分により日本とロシアに故郷を奪われたアイヌの先住民達のヘビーな民族問題をテーマに掲げている。
人間の生きる駆働力となるものは何なのか。
彼らの熱は、そして自分の熱の源はどこにあるのか。
読んでいるだけで身体中の血が駆け巡り、鼻先まで熱くなる本だ。
適者生存の時代の激流に翻弄される中、
抗う人、
受け入れる人、
弱肉強食の摂理を変えようと、新たな道を切り開く人がいる。
アイヌは「人」だ。
異国で生きる彼らの熱源が、ある時出逢うべくして出逢い、それは大きなひとつの塊となっていく。
それぞれの結末は違えど、雪の孤島樺太(サハリン)は、明治維新から第二次大戦後の儚い時代、凍えるほど寒く、とんでもなく熱い大地だった。
ヤヨマネクフ、シシラトカ、千徳太郎治、ブロニスワフ・ピウスツキ、イペカラ、キサラスイ……etc。
今では確認せずとも言える。
読み始めたばかりの頃に感じた、登場人物達の名前が覚えられないかもしれないという不安は杞憂だった。
登場人物が魅力的であれば、例え日本人に馴染みのない名前も、茶飲み仲間達の名と同じように頭に入るのだなと改めて思う。
史実をもとにして描かれていると知らずに読み始めたため、ヤヨマネクフやブロニシが実在していた事実を知った時、熱が出るほど嬉しかった。
アイヌに惹かれたその熱のまま、「ゴールデンカムイ」を全巻大人買いしてしまったほどである。
歴史小説では避けられない天然痘やコレラの伝染病の恐怖を知り、そこで生存した人々の熱によって自分は生まれ、平和な現代に引き継がれていることへの奇跡を感じた。
日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。
戦場にしか自分の居場所がなくなってしまった女性兵士。
文明を押し付けられ、アイデンティティを揺るがされた人々の叫びはこうして未来に届いている。
この熱はおいそれとはなくならない。
@ながれ