地底人とりゅう

「地底人とりゅう」は、日々の読書本を記録していくために開設した個人ブログです。書店では入手困難な古書の紹介もぽつぽつと投稿しております。

『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』(文春文庫):ジェーン・スー

女たちは日夜、心と身体にゴテゴテの甲冑を身につけて生きている。

それを私自身に当てはめてみれば、青白い肌を血色良くみせるための口紅、地味だけれど上質な服、現代アートではなく、歌川国芳や広重の浮世絵を好むところや、男よりも短い黒髪もそうだと言えるかもしれない。

口紅は根暗な表情をいくらか社交的にみせてくれるし、地味で上質な服を着るのには、外見を取り繕うのは嫌だけど、だらしないと思われるのはもっと心外だからという理由がある。

浮世絵が好きな気持ちは実直なつもりでも、時代に流されたくないという頑固な素顔は隠しきれない。

昔はコンプレックスだった太い眉は、ばっさりカットした髪といっしょに劣弱意識も切り落とした。不幸や先天的特質には屈しない、意志の強さを髪で体現したかったのだ。

蓼食う虫も好き好きで、みな様々な甲冑を心のクローゼットの中にしたためている。

あの好きもこの好きも、誠実かと聞かれるとちょっと怪しい。

大人の女にみられたい、個性的だと思われたい、嫌われたくないあの人のため。

あー、女って面倒くさい!

 

女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。 (文春文庫)

女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。 (文春文庫)

 

 

ジェーン・スーの『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』は、くすりと笑える女性向けエッセイ集だ。

げらげら笑いたい時に観るお笑い番組のような本が原田宗典のエッセイなら、人知れず抱えた悩みをバカらしいと笑い飛ばしてくれるのがジェーン・スーのエッセイである。

 彼女の考察はいつも秀逸で、それはさすがに捻くれすぎだと口では言いたくなるような体験談も、内なる自分はヘッド・バンキングさながらに首を縦に振っているのだから示しがつかない。「最高の日曜日」なんて、自分の日記かと思ったくらいだ。

私だけじゃない。

あなただけじゃない。

ありのままでいられないのは、悪いことなんかじゃない。

だけど、ありのままの姿でいられる人は、やっぱり眩しくて憧れてしまう。

各々が武士たる野心を胸に抱いて、戦場に赴いている。

この本を読むと、上手に隠しすぎていつの日か意識の外に置いていた、ありのままの自分の姿を嫌でも思い出してしまう。

ジェーン・スーはそんな、甲冑を脱いだ愛されない女たちをも肯定してくれる。

ひと昔前に女たちがざわついた、「東京タラレバ娘」を読んだ時のような親近感。

勇敢な仲間たちよ、ジェーン・スーにつづくのだ。

 

 

@ながれ