地底人とりゅう

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『ぼんくら 上・下』(講談社文庫):宮部みゆき

『ぼんくら』とは、頭のぼんやりした怠け者のことである。

四十なかば、ぼんくらだけれど心根の優しい親父、井筒平四郎(いづつ へいしろう)は、続けざまに人が立ち退いていく町の様子に違和感を覚えていた。

事情があって新しく配属された佐吉という名の若い差配人が、自分の力不足のせいだと落ち込む姿を見て気の毒になり、平四郎はとうとう重い腰を持ち上げる。

と言っても推理小説の常ならば、名探偵ぶりを発揮するはずの当の主人公は根っからの面倒臭がりだもんで、捜査はほとんど人任せ、烏任せで事はすすむ。

見ているこっちが苦笑しているうちに、あまりに頼もしい仲間たちの助力を得て、事件は少しずつ輪郭を現していく。

 

ぼんくら(上) (講談社文庫)

ぼんくら(上) (講談社文庫)

 

 

ぼんくら(下) (講談社文庫)

ぼんくら(下) (講談社文庫)

 

 

宮部みゆきは女性を描くのが上手い。

絶世の美女なのにド近眼で牛乳瓶の底のみたいな丸眼鏡をかけたみすずは慌てんぼうで可愛らしく、煮売り屋のお徳は気が強いが情は深く、口うるささは優しさに溢れている。

お徳の素直になれないか弱さを見抜いているおくめは、元遊女で怠け癖はあるものの、実は誰よりも人間が大きい。憎まれ口を叩く相手にさえ愛情深く、親身になれる。

その上自分の辛さはおくびにも出さず、明るく笑い飛ばすことのできる、気だての良い女だ。

一方、『ぼんくら』の登場人物のなかでも人気を博している弓之助という頭の切れる美少年については、おつむの弱い私からしたら賢いにしても度が過ぎるだろうというのが正直な感想である。

子どもらしからぬ知性を補うようにして、少年には「毎夜おねしょをしてしまう」愛らしい弱点があるのだが、12才(か11才だったと思うが)の年齢は、「おねしょ」をしてしまうには大きすぎる気がしてしまう。

私が小6か中学1年生の頃、クラスメイトの誰かは人知れず「おねしょ」をしていたんだろうか。非常に可愛い設定だけれど、なんとなく違和感が拭いきれない。

登場人物の誰か一人でもそんな違和感を代弁してくれていれば、読み手側が違和感を感じることはなかったように思う。まあ何はともあれ私が捻くれているだけなのだ。

『ぼんくら』は人情ものの、非常に人気度の高い時代ミステリー小説である。

ぼんくら者の平四郎ならでは結末に、時にはほっとひと息ついてみてはどうだろうか。

 

 

@ながれ