『アウシュビッツの図書係(集英社)』:アントニオ・G・イトゥルベ
本のもつ可能性には限界も境界もない。
ずっとそう思っていたけれど、今回ほどその想いにぞっこんしたことはなかった。
『アウシュビッツの図書係』の著者は、同じ蜜に吸い寄せられたアントニオ・G・イトゥルベというスペインのジャーナリストです。
本が禁じられていたアウシュビッツに、秘密の図書館があったことを知ったイトゥルベは、当時その小さな図書館の窓口となっていた少女、ディタ・クラウスがホロコーストを生き抜いてイスラエルの海辺の街で暮らしていると知り、会いにいきました。
そうして生まれた『アウシュビッツの図書係』は、ディタの体験談をもとに書かれた小説です。
SS(親衛隊)からの凄烈な暴力以上に、彼らが最も恐れていたものは、将校ヨーゼフ・メンゲレ親衛隊大尉による「死の選別」です。
選別を受けた先に待っているものは、ガス室か、想像をはるかに上まわる強制労働でした。
本がみつかれば即刻死刑の状況で、主人公のディタはあらゆる困難を乗り越える意志の強さと優しさと、好奇心と知性をもって、8冊の本を守り抜きます。
なぜなら本は、人生に足りないものを与えてくれるから。
本を開けることは、汽車に乗ってバケーションに出かけるようなもの
それだけで充分だった。
私はこれまで以上に本が好きになりました。
最後に、『アウシュビッツの図書係』1ページめで紹介されている、ウィリアム・フォークナーの言葉を引用して終わります。
文学は、真夜中、荒野の真っただ中で擦るマッチと同じだ。
マッチ一本ではとうてい明るくならないが、
一本のマッチは、周りにどれだけの闇があるかを私たちに気づかせてくれる。
@ながれ