地底人とりゅう

「地底人とりゅう」は、日々の読書本を記録していくために開設した個人ブログです。書店では入手困難な古書の紹介もぽつぽつと投稿しております。

2020-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『超高速! 参勤交代』(講談社文庫):土橋章宏

参勤交代による大名行列のうち、ほとんどの人員はエキストラであった。 『超高速! 参勤交代』は、当時全国的にみても石高(米のとれ高=経済力)の低い、とある小藩の血の滲むような参勤奮闘劇である。 超高速! 参勤交代 (講談社文庫) 作者:土橋 章宏 出版…

『悪童日記』(早川書房):アゴタ・クリストフ

物語の底気味悪さは、童話のような読みやすさであればあるほど際立ってくる。 『悪童日記』はタイトルどおりの物語だが、その日記を綴っている悪童は、まだ幼い双子の少年たちだ。 二人が言う「ぼくたち」は一人称として使われていて、何をするにも一緒に行…

『御社のチャラ男』(講談社):絲山秋子

チャラ男というと、軽いノリであちこちに手をだす猿のような男のことをいうのだと思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。 彼らはなんだって実力の賜だと勘違いしてはうぬぼれ、スマートでないことを嫌う。 初めのうちは尊敬の眼差しを向けてもらえ…

『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』(文春文庫):ジェーン・スー

女たちは日夜、心と身体にゴテゴテの甲冑を身につけて生きている。 それを私自身に当てはめてみれば、青白い肌を血色良くみせるための口紅、地味だけれど上質な服、現代アートではなく、歌川国芳や広重の浮世絵を好むところや、男よりも短い黒髪もそうだと言…

『最高の任務』(講談社):乗代雄介

読むたびに私は、乗代雄介の甘い情景描写に舌鼓を打ってしまう。 一本の木が生えているだけの寒々しい空間の中でさえ、きっと彼の双眼は、葉の虫食い穴や、割れ目の間で咲いている一輪の小さな花の存在以上の、鮮やかな景色をみつめている。 私は鈍行列車の…

『寝台鳩舎』(太田出版):鳩山郁子

煤けた青空を飾るように舞う、この美しい少年たちは軍鳩である。 一斉に飛び立ち、どこにも帰り着くことのできないまま、彼らは戦時下の空の虚空に無数に散っていく。 寝台鳩舎 作者:鳩山郁子 出版社/メーカー: 太田出版 発売日: 2016/11/17 メディア: 単行…

『吸血鬼』(講談社):佐藤亜紀

『吸血鬼』という名のタイトルがあてがわれたこの物語の中には、十字架や聖水を嫌う吸血鬼の姿は出てこない。 人の生き血を啜る醜い化け物の正体を知るのは、餌食となる哀れな被害者たちだけである。 吸血鬼 作者:佐藤亜紀 出版社/メーカー: Tamanoir 発売日…

『わたしは灯台守』(水声社):エリック・ファーユ

カミュの『異邦人』の言葉を借りるならば、人間の生にはなんらの確たる意味も根拠も目的もない。 『わたしは灯台守』はそんな、人間世界の無意味性を訴えかけてくるような本である。 灯台守のわたしと陸地に住む人間たちの関係は、根源的な人間と世界の関係…