『寝台鳩舎』(太田出版):鳩山郁子
煤けた青空を飾るように舞う、この美しい少年たちは軍鳩である。
一斉に飛び立ち、どこにも帰り着くことのできないまま、彼らは戦時下の空の虚空に無数に散っていく。
主人公の少年ダヴィーは、両親と共に ヴァイオレット・スプリング・シティへと向かう列車に乗っていた。
車内を探索していたダヴィーは、寝台車両に突き当たる。
その時傍で、空から何かが墜っこちてきたような音がした。
音は鳴り止むこともなく、誰もいなかったはずの寝台は、くたばりかけの少年たちで次々と埋め尽くされていく。
ダヴィーははじめ、年相応に狼狽し、逃げるように車両から出で立ってしまう。
しかし、彼らから託された小さな通信管を、マスターと呼ばれる人物に届けなくてはならなかった。
それは自分にしか果たすことのできない重要な使命であることに気付いたダヴィーは、後生一生の決断を迫られることになる。
少年の姿をした軍用伝書鳩たちの魂は、果たして神の加護を受けられただろうか。
ひとつひとつの「箱」には、小さな世界が収められている。
何度も死と再生を繰り返しながらマティエスコたちが運ぶ世界は、箱作り人の手によって意味を与えられたのだ。
それ以外に何も持たない軍鳩たちにとって、通信管の中身は生きるよすがである。
それがなければ、彼らは広大無辺のあの大空にきっと呑み込まれてしまっただろう。
残酷な優しさが、水色に透き通ったビー玉みたいな形をして、ふいに読んでいた私の前に現れる。
それを見て私は鳥肌を立てずにはいられなかった。
困ったことに、鳩山郁子の描き出す少年たちはみな美しすぎるのだ。
どう足掻いたって目をそらせない。
もしも自分がマスターの後継者に選ばれのたなら、その中身は彼らが永遠に忘れ去られることのないようなものにしたい。
ダヴィーは書記たちに、どんな言葉を書かせたんだろう。
もしかするとこの本こそが、ダヴィーの声そのものなのかもしれない。
@ながれ