地底人とりゅう

「地底人とりゅう」は、日々の読書本を記録していくために開設した個人ブログです。書店では入手困難な古書の紹介もぽつぽつと投稿しております。

時代

『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』(ハヤカワ文庫):皆川博子

第12回本格ミステリ大賞を受賞した『開かせていただき光栄です』は、総毛立つほど面白い、まさに崇拝すべき一冊である。 さりげない伏線に何度でも騙されたい、あの時の、魂が震えるような昂ぶりをもう一度味わいたい、そんなマンネリ気味のミステリ好きに…

『散り椿』(角川文庫):葉室麟

椿は普通、首が落ちる様を思わせるとして武家に嫌われる花である。 散り椿は、花ごとぽとりと落ちるのではなく、花弁が一片(ひとひら)ずつ散っていく。 秀吉が寄進した五色八重散椿(ごしきやえつばき)の植えられた地蔵院の境内を舞台に、男と女の想いが…

『八朔の雪―みをつくし料理帖』(ハルキ文庫):高田郁

こんなに優しい小説を読むのは久しぶりだった。 主人公 澪のつくった酒糀汁が喉を通って心を満たし、身体がじんわりと温まっていく。 「みおつくしシリーズ」は実は番外編を除いて全10巻の長編小説で、高田郁は私の尊敬する漫画原作者でもある。 第一巻と…

『ぼんくら 上・下』(講談社文庫):宮部みゆき

『ぼんくら』とは、頭のぼんやりした怠け者のことである。 四十なかば、ぼんくらだけれど心根の優しい親父、井筒平四郎(いづつ へいしろう)は、続けざまに人が立ち退いていく町の様子に違和感を覚えていた。 事情があって新しく配属された佐吉という名の若…

『忍びの国』(新潮文庫):和田竜

笑って泣ける忍者小説『忍びの国』の主人公無門(むもん)は、なんと性格、容姿、どちらにおいても格好良いとは言いがたい人物である。 だのになんだか憎みきれない性格は味わい深く、しまいには「意外とやるじゃん」どころか、めちゃくちゃイケメンに見えて…

『燃えよ剣 上・下』(新潮文庫):司馬遼太郎

動乱の時代、新選組副長土方歳三の生き様は、まるで樹齢1000年のしだれ桜のように逞しく、その上で積雪のようにして咲く紅の花弁のように美しかった。 燃えよ剣(上) (新潮文庫) 作者:司馬 遼太郎 発売日: 1972/06/01 メディア: 文庫 燃えよ剣(下) (…

『蜩ノ記』(祥伝社文庫):葉室麟

直木賞受賞後、映画化もされた名作『蜩ノ記(ひぐらしのき)』は、私が時代小説に初めて恋をした、思い入れの深い一冊である。 蜩ノ記 (祥伝社文庫) 作者:葉室 麟 出版社/メーカー: 祥伝社 発売日: 2013/11/08 メディア: 文庫 罪を犯し、命の期限を定められ…

『超高速! 参勤交代』(講談社文庫):土橋章宏

参勤交代による大名行列のうち、ほとんどの人員はエキストラであった。 『超高速! 参勤交代』は、当時全国的にみても石高(米のとれ高=経済力)の低い、とある小藩の血の滲むような参勤奮闘劇である。 超高速! 参勤交代 (講談社文庫) 作者:土橋 章宏 出版…

『悪童日記』(早川書房):アゴタ・クリストフ

物語の底気味悪さは、童話のような読みやすさであればあるほど際立ってくる。 『悪童日記』はタイトルどおりの物語だが、その日記を綴っている悪童は、まだ幼い双子の少年たちだ。 二人が言う「ぼくたち」は一人称として使われていて、何をするにも一緒に行…

『寝台鳩舎』(太田出版):鳩山郁子

煤けた青空を飾るように舞う、この美しい少年たちは軍鳩である。 一斉に飛び立ち、どこにも帰り着くことのできないまま、彼らは戦時下の空の虚空に無数に散っていく。 寝台鳩舎 作者:鳩山郁子 出版社/メーカー: 太田出版 発売日: 2016/11/17 メディア: 単行…

『吸血鬼』(講談社):佐藤亜紀

『吸血鬼』という名のタイトルがあてがわれたこの物語の中には、十字架や聖水を嫌う吸血鬼の姿は出てこない。 人の生き血を啜る醜い化け物の正体を知るのは、餌食となる哀れな被害者たちだけである。 吸血鬼 作者:佐藤亜紀 出版社/メーカー: Tamanoir 発売日…

『荒城に白百合ありて』(角川):須賀しのぶ

『荒城に白百合ありて』は、「幕末版ロミオとジュリエット」と謳われている。 恋愛の障害とは、惹かれ合うふたりの周囲に存在するものだと思っていた。 自身の葛藤などよりもずっと深い、果実の中心に存在する黒い種子のようなもの、そんなものが障害となり…

原作『風の谷のナウシカ(全7巻)』(徳間書店):宮崎駿

原作「風の谷のナウシカ」は、ジブリ作品の中でもとりわけ世界観が非常に細かく、宮崎駿が13年もの歳月をかけて完結した超大作の連載漫画です。 風の谷のナウシカ 全7巻箱入りセット「トルメキア戦役バージョン」 作者:宮崎 駿 出版社/メーカー: 徳間書店 …

『熱源(文藝春秋)』:川越宗一

本にもミステリ、ホラー、SF、ファンタジーと色々な類型がある中で、私が最も好きなのが、「熱」を持つ小説である。 その熱を必ずといって良いほど感じられるのが、歴史小説だ。 熱源 作者: 川越宗一 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2019/08/28 メディア…

『ゆめこ縮緬(角川文庫)』:皆川博子

皆川博子の物語に出てくる台詞は、いつも耳に心地よく、見ていて美しい。 活字が水面に浮かぶ落ち葉のように鉤括弧の外に揺れ動き、耳元でたしかに今、女の秘めやかな声が聞こえたような気がしてしまう。 ゆめこ縮緬 (角川文庫) 作者: 皆川博子 出版社/メー…

『ジェイン・エア(岩波文庫)』:シャーロット・ブロンテ

シャーロット・ブロンテの「ジェイン・エア」は、世界文学で最も有名な作品のひとつとして、何度も舞台化や映画化されてきた。 「ジェーン・エア」とも呼ばれる映画のひとつを私は見たことがあるが、当時は印象にも残らなかったのが事実だ。 だから原作小説…

『アースダイバー(講談社)』:中沢新一

中沢新一の新刊である「レンマ学」を読むことを潔く諦めた私に、親切で聡明な知人が中沢新一の著作物の中でも一番易しいと思われる哲学書として、「アースダイバー」という本を教えてくれた。 読んだからには感想を伝えなくてはいけない。 ところがいざどん…

『アウシュビッツの図書係(集英社)』:アントニオ・G・イトゥルベ

本のもつ可能性には限界も境界もない。 ずっとそう思っていたけれど、今回ほどその想いにぞっこんしたことはなかった。 アウシュヴィッツの図書係 作者: アントニオ・G・イトゥルベ,小原京子 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2016/07/05 メディア: 単行本 …

『クロコダイル路地(講談社文庫)』:皆川博子

はじめまして、ながれです。 お目通しいただきありがとうございます。 『地底人とりゅう』では私の読書本紹介をメインに投稿していきます。 本日は私が夏の冷房よりも渇望してやまない皆川博子先生の、『クロコダイル路地』をご紹介します。 クロコダイル路…