地底人とりゅう

「地底人とりゅう」は、日々の読書本を記録していくために開設した個人ブログです。書店では入手困難な古書の紹介もぽつぽつと投稿しております。

2020-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』(ハヤカワ文庫):皆川博子

第12回本格ミステリ大賞を受賞した『開かせていただき光栄です』は、総毛立つほど面白い、まさに崇拝すべき一冊である。 さりげない伏線に何度でも騙されたい、あの時の、魂が震えるような昂ぶりをもう一度味わいたい、そんなマンネリ気味のミステリ好きに…

『散り椿』(角川文庫):葉室麟

椿は普通、首が落ちる様を思わせるとして武家に嫌われる花である。 散り椿は、花ごとぽとりと落ちるのではなく、花弁が一片(ひとひら)ずつ散っていく。 秀吉が寄進した五色八重散椿(ごしきやえつばき)の植えられた地蔵院の境内を舞台に、男と女の想いが…

『八朔の雪―みをつくし料理帖』(ハルキ文庫):高田郁

こんなに優しい小説を読むのは久しぶりだった。 主人公 澪のつくった酒糀汁が喉を通って心を満たし、身体がじんわりと温まっていく。 「みおつくしシリーズ」は実は番外編を除いて全10巻の長編小説で、高田郁は私の尊敬する漫画原作者でもある。 第一巻と…

『ぼんくら 上・下』(講談社文庫):宮部みゆき

『ぼんくら』とは、頭のぼんやりした怠け者のことである。 四十なかば、ぼんくらだけれど心根の優しい親父、井筒平四郎(いづつ へいしろう)は、続けざまに人が立ち退いていく町の様子に違和感を覚えていた。 事情があって新しく配属された佐吉という名の若…

『忍びの国』(新潮文庫):和田竜

笑って泣ける忍者小説『忍びの国』の主人公無門(むもん)は、なんと性格、容姿、どちらにおいても格好良いとは言いがたい人物である。 だのになんだか憎みきれない性格は味わい深く、しまいには「意外とやるじゃん」どころか、めちゃくちゃイケメンに見えて…

『燃えよ剣 上・下』(新潮文庫):司馬遼太郎

動乱の時代、新選組副長土方歳三の生き様は、まるで樹齢1000年のしだれ桜のように逞しく、その上で積雪のようにして咲く紅の花弁のように美しかった。 燃えよ剣(上) (新潮文庫) 作者:司馬 遼太郎 発売日: 1972/06/01 メディア: 文庫 燃えよ剣(下) (…

『アサイラム・ピース』(ちくま文庫):カヴァン・アンナ

孤独と絶望で生まれたおどろおどろしい生き物が、行間のそこここで呼吸しているのを感じる。 『アサイラム・ピース』は、 水面に落ちた一滴の墨と同様に、迷路のように曲がりくねって、たちまち始まりがわからなくなる。迷えば一点の光も失って、一面が闇に…

『完全版 下山事件 最後の証言』(祥伝社文庫):柴田 哲孝

成らず者には二種類の人間がいる。 苦境を逃れようと、生きるために足掻いた結末として犯罪者となった者と、 金や権力、人望の全てをもっているにも関わらず、強欲のために自ら悪に染まる者だ。 どちらがより悪党かなんて、考えたことがあるだろうか? 下山…

『蜩ノ記』(祥伝社文庫):葉室麟

直木賞受賞後、映画化もされた名作『蜩ノ記(ひぐらしのき)』は、私が時代小説に初めて恋をした、思い入れの深い一冊である。 蜩ノ記 (祥伝社文庫) 作者:葉室 麟 出版社/メーカー: 祥伝社 発売日: 2013/11/08 メディア: 文庫 罪を犯し、命の期限を定められ…

『白い果実』(国書刊行会):ジェフリー・フォード

ジェフリー・フォードの『白い果実』は、悪に満ちた独裁者の世界から始まる。 世界幻想文学大賞にふさわしいこの驚異的な小説を、日本幻想文学の巨匠である山尾悠子が訳しているのだから、読まないという選択肢はなかった。 原作の世界観を崩すことなく訳す…